その「企業ブランディング」は正解か? 自社にあった方向性を見つける「3つの問い」
多くの企業が取り組む企業ブランディング。しかし、多額のコストを投じても、目的が曖昧だったり、メッセージがずれていては成果につながらない。「本当にこれで正解か?」と迷う企業に対し、成功の土台となる「3つの問い」とプロセスを解説する。
安定的な経営に向け、高まる企業ブランディングの重要性
採用競争の激化やESG投資の拡大など、経営環境が厳しさを増す中、企業ビジョンを一貫して発信し、ステークホルダーの信頼を獲得する企業ブランディングの重要性が高まっている。 実際、テレビCM全体の出稿量が減少傾向にある中でも、企業訴求CMの出稿量は維持されている(図1)。これは、長期的なブランド価値の浸透が、安定的な企業経営に不可欠であると認識されている証左といえる。 しかし、重要性が高まる一方で、目的が曖昧なまま施策が先行し、成果を得られていないケースも散見される。成功の土台を作るためには、いくつかの「問い直し」が必要である。
テレビCMの出稿量推移

出所)NRI Insight Signal調査(関東3,000名程度、男女20~60代)
問い直し(1):目的は何か?─「誰に何をしてほしいか」を起点とする─
「認知率向上」や「イメージアップ」はあくまで通過点であり、最終目的ではない。企業がコストを投じる以上、事業活動へのプラスが必要だ。重要なのは「誰に(ターゲット)」「何をしてほしいのか(行動)」を起点に目的を整理することである。
目的が複数ある場合は優先順位が鍵となる。企業ブランディングは全方位的になりがちだが、優先度を決めなければ、効果的なメッセージ設計や予算配分はできない。 もちろん、レピュテーションリスクへの備えとして「全方位」を選択する場合もあるが、それは「何となく」ではなく、戦略的な判断であるべきだ。
また、目的は定期的な見直しも重要だ。弊社が支援したBtoB企業A社(図2)では、当初「取引件数増加」を目的にしていたが、経営戦略の転換や採用課題の浮上を受け、「人材獲得」も新たな目的に追加した。外部環境や社内事情の変化に応じ、目的を再設定する柔軟な姿勢が求められる。
BtoB企業A社のブランディングの目的設定

出所)弊社支援企業の事例よりNRI作成
問い直し(2):どんな姿を目指すか?─理想とする姿と言語化─
次に、対象とするステークホルダーに「どう見られたいか(目指す姿)」と、「そのために伝えるべき提供価値」を言語化する。 自社の経営理念、ケイパビリティー、競合との差別化ポイント、そして社会からの期待を洗い出し、自社“らしさ”を示すキーメッセージを導き出す。このプロセスは以降の検討の土台となるため、社員を巻き込んだワークショップを行うことや、社外の協力も仰ぎ、十分な検討材料を用意することが重要だ。社内外の視点を取り入れて納得感を醸成することが重要だ。
目的設定後のフロー

出所)弊社支援企業の事例よりNRI作成
問い直し(3):その姿は本当に目的につながるか?─実行前の検証─
ブランディングの実行に移る前に、立ち止まって検証すべき観点が3つある
企業ブランディングの目的・目指す姿を設定したら「問い直す」こと

出所)弊社支援企業の事例よりNRI作成
第一は、「伝わった結果、目的(行動変容)につながるか」だ。たとえば、採用を目的に掲げながら「共感」を軸にしたメッセージを発信した場合、求職者に共感はされたとしても「自分が働く場としては求めていない」と感じれば、目的に直結しない。「伝わった」で終わらせず、その先の行動まで見据える必要がある。
第二は、「主語は『企業』でよいか」だ。目的によっては製品ブランドを前面に出したり、あるいはホールディングスではなく事業会社単位で訴求した方が効果的な場合もある。「企業ブランディング」ありきではなく、最適な主語を検証すべきだ。
第三は、「ステークホルダーの行動プロセス」の把握だ。例えば生命保険の検討プロセス(図5)は、情報収集手段の変化により年々変わっている。顧客がどのタイミングで企業を意識するかを正しく押さえなければ、適切なKPI設定もできない。
ステークホルダーが辿る態度変容・行動のプロセス

出所)弊社支援企業の事例よりNRI作成
適切なKPI設定の鍵は「断面」を捉えること
KPIを適切に設計するためには、ステークホルダーが目的の行動に至るまでの態度変容や接触イベントを把握し、どの断面を捉えるべきかを見極める必要がある。 前述の生命保険の例なら、最終的な契約意向はブランディング活動と距離があるためKPIには不向きだ。しかし、初期の「考慮集合(検討候補)」に入ることが契約率に影響すると分かれば、その直前の「企業想起率」をKPIに設定できる。行動プロセスを分解し、施策が効くポイントを見極めることが、実効性のあるブランディングへの第一歩となる。
まとめ
企業ブランディング成功の鍵は、目的と目指す姿を明確化し、それが本当に成果につながるかを冷静に「問い直す」ことにある。 また、環境変化に合わせて戦略を柔軟に見直す姿勢も不可欠だ。既存の戦略に固執せず、目的やアプローチ、時にはブランディング以外の手段も含めて再考を続けることこそが、本当に意味のある企業価値向上につながるだろう。

