2019年8月 1日

-マーケターが押さえておきたい効果的な広告の使い方- 【"効果"を高めるクリエイティブのキー要素】

2019年4月号では、【効果的なクリエイティブの見つけ方】と題し、クリエイティブの類型化の例を紹介した。具体的には、食品を事例に、クリエイティブを「インパクト型」(クリエイティブの多くの尺をタレントが占めている素材)、「説明型」(タレントの出演時間が少なく、その分商品露出や商品のシズル演出に用いている素材)、「バランス型」(これらの中間的素材)に分類し、購入意向の創出効果を比較した。今回は、前述の「インパクト」と「説明」について、より広範かつ一般的に定義し、効果を高めるクリエイティブのポイントを探っていきたい。

広告が効果を発揮する鍵を担う「広告インパクト」と「メッセージ伝達度」

広告は、出稿しても、相手に届かなければ意味がない。「届く」とは「リーチする」のみならず、「広告内容が届く」ことを意味する。そのため、クリエイティブ自体が印象に残ることや、広告で訴求しているメッセージがしっかりと伝わることが重要である。前者の「広告インパクト」を接触回数が同じだった場合にどれだけCMが覚えられたか、後者の「メッセージ伝達度」を商品やサービスの特徴・内容がどれだけ伝わったかで指標化し、2018年の調査事例を分析したところ、以下の関係が浮かび上がった(図1)

  1. 広告の印象が残るほど、訴求したメッセージが伝わりやすい。
  2. 「名称認知」を効果とした場合、「広告インパクト」からも「メッセージ伝達度」からも「名称認知」に直接的な効果がある。
  3. 「購入意向」を効果とした場合には、訴求したメッセージがいかに伝わることが重要となる。「広告インパクト」から直接的な効果はみられにくく、「メッセージ伝達度」を経由し効果が生じている。

なお、「広告インパクト」「メッセージ伝達度」の効果の発揮のしかたは、商品やサービスの市場浸透度によっても変わってくる。導入・成長期には、商品・サービスが知られていないため、その特徴を伝えること(「メッセージ伝達度」を高めること)がより購入意向に効きやすい。これが、成熟・飽和期になると、商品内容が世の中で知られており、市場自体が成熟し差別化が難しい環境になっているため、「メッセージ伝達度」よりも「広告インパクト」の方が効くケースが増えてくる。

図1 「広告インパクト」「メッセージ伝達度」と"効果"の関係

000274_001.png

「広告インパクト」や「メッセージ伝達度」を形成する要素

では、「広告インパクト」や「メッセージ伝達度」を高めるにはどうしたらよいのか。

CMの要素には、タレント・キャラクターの出演状況、タレント知名度、サウンドロゴの使い方、画面の明るさ、カットの展開速度、シリーズ継続性、CMトーン・雰囲気、シズル感、商品露出量、文字数・コピー量などがある。これらの要素と「広告インパクト」や「メッセージ伝達度」との関係を個別にみると、たとえば以下のような傾向がみられる。

  • タレント出演割合が多いほど、広告インパクトもメッセージ伝達度も高くなる。
  • シリーズは、継続している場合の方が広告インパクトは得やすいが、メッセージ伝達度との関係はみられない。
  • 商品露出量が多いと、メッセージ伝達度が高くなる。
  • ユーモアな雰囲気の広告はインパクトを得やすく、感動的な雰囲気の広告とともにメッセージ伝達にも有益。

クリエイティブを制作する上では、「広告インパクト」や「メッセージ伝達度」と各要素の個別の関係とともに、「広告インパクト」や「メッセージ伝達度」を高めるための各要素の優先度が知りたくなる。そこで、決定木分析により構造を整理した。

まず、「広告インパクト」と要素の関係(図2)をみると、広告インパクトにはタレントが大いに影響している。タレント出演割合が多いと、さらに子供が出演している場合に広告インパクトを高めやすい。子供の起用は商品・サービスの内容にも関わるが、CMの雰囲気をユーモアにするとインパクトが高まるようである。

続いて、「メッセージ伝達度」と要素の関係(図3)を整理すると、「メッセージ伝達度」に真っ先に効いてくる要素は商品露出量である。その商品が何者かを説明するには、実物の提示に勝るものはない。ただし、制作のバランスの中で商品の露出量が限られる場合もあるだろう。その場合には、コピー量やCMトーンなど他の要素の組み合わせによって、効果を高める方法がある。

ターゲットの明確化や、ターゲットに接触する効率的な出稿は非常に重要である。それとともに、顧客のどのステップを高めるか、その効果を得るためにどのようなクリエイティブを展開するかについても、「広告インパクト」と「メッセージ伝達度」を軸に十分に検討されたい。

図2 「広告インパクト」と要素の関係(決定木)

000274_002.png

出所)NRIアンケート調査(関東20~69歳、2018年に放映された141事例)

図3 「メッセージ伝達度」と要素の関係(決定木)

000274_003.png

出所)NRIアンケート調査(関東20~69歳、2018年に放映された141事例)