2020年7月15日

「オンライン授業普及のカギはスマートフォン活用にあり」

オンライン授業実施に見られる教育格差

新型コロナウイルス感染対策および4月の緊急事態宣言の発令を受け、多くの自治体では小中学校を5月末まで休校としていましたが、6月以降に段階的に解除され、概ね通常と同じ授業が実施されるようになりました。

3月から5月末までの休校期間においては、一部の学校では学習機会の不足・学習の遅れへの対応として、オンライン会議ツールのZoomアプリやマイクロソフトTeams等を活用して試験的にオンライン授業を実施したところもありました。ただし、オンライン授業の実施およびその受講状況については、学校ごとに対策が取れたどうかにより、教育格差につながってしまっているようです。公立学校、私立学校、国立学校別にオンライン授業の受講状況を見ると、小学校・中学校ともに私立学校と国立学校の受講割合は高いものの、公立学校では著しく低いことが分かりました。公立学校とそれ以外では、そもそも学校における教育ICT設備の整備状況について差があることが影響しており、特に公立学校においては急遽決まった休校への対応としてオンライン授業を実施すること自体が難しかったと思われます。

1.インターネットを介した同時双方向型の遠隔授業の受講状況

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受講者側にも見られる教育格差

また、公立学校に通う児童・生徒においても、世帯年収によってオンライン授業の受講割合に差が生じていることが図1から分かります。これは学校側でオンライン授業を実施できるかとは別に、家庭側でオンライン授業を受講できる環境にあるかが関わっています。

図2は公立学校に通う児童・生徒をお子さんに持つ家庭におけるIT機器関連の保有状況です。世帯年収が低いほど、パソコンやタブレット、無線LANの普及が進んでおらず、オンライン授業に必要な環境が整っていないことが分かります。また、プリンターについては、オンライン授業の実施自体には影響はありません。しかし、学校から配信された課題をプリントアウトして取り組む際には必要となり、実はプリンターが無いことも休校期間における学習への妨げにもなっているとのことです。

図2.家庭におけるIT機器等の保有状況(世帯年収別)

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子どもにスマートフォンを持たせている家庭は受講割合が高い

公立学校ではオンライン授業の受講割合が低いですが、子どもがスマートフォンを保有しているかどうかで、その割合が大きく向上することが明らかになりました。今やスマートフォンの保有は多くの保護者は持っているため世帯保有率としては高いですが、その中でも子どもがスマートフォンを持っている家庭では、オンライン授業の受講割合が高い結果が得られました。特に、世帯年収が低い家庭においても、子供がスマートフォンを持っていることでオンライン授業の受講割合が高まることから、スマートフォンを学習用として活用することでより多くの児童・生徒がオンライン授業を受けられることができそうです。

図3.インターネットを介した同時双方向型の遠隔授業の受講状況

(世帯年収別、スマートフォン保有状況別、公立学校)

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子どものスマートフォン保有は上昇しています。内閣府「令和元年度青少年のインターネット利用環境実態調査」によると、小学生・中学生ともにスマートフォン利用は年々増加しており、令和元年度においては小学生49.8%、中学生75.2%がスマートフォンを利用しているとの結果が得られています。子どもに持たせたスマートフォンを教育用として活用し、Zoom等のアプリによってオンライン授業を受けるという選択肢は現実味を帯びてきます。

ただし、家庭で購入したスマートフォンは、機種によってスペックやセキュリティ対策にばらつきがあり、義務教育課程として等しく教育を受ける環境として適切であるか、課題は残ります。教育先進国と言われる北欧諸国の一つ、フィンランドでは7歳までに7割の子どもがスマートフォンを買い与えられ、教育への活用が進んでいます。フィンランドでは、国家が主導となりクラウド上に学習プラットフォームを構築しており、学習者がどのような端末を使用していても、みな同じように教育サービスを受けることができるようになっています。また、多くのサービスをクラウド上に実装しているため、個々人の端末にソフトウェアを用意する必要がなくなり、コスト面での負担軽減に大きく貢献しているとのことです。日本においても、クラウド上に学習プラットフォームを整備することで、個々人の端末からアクセスし、教育を受けられる環境を用意するなど、柔軟性を持たせることは今後自治体として求められることでしょう。

オンライン授業の思わぬ効用

3月から5月にかけての休校対策と導入したオンライン授業は、学校によっては午前中に短時間でオンライン授業を実施し、午後は各自課題に取り組んでもらう、といったように通常の授業形式と比較するとかなり制約のある中での実施でしたが、それでも自宅で授業を受け・課題に取り組むといった経験をすることで、思わぬ学習効果が得られているようです。

学習には単に学んで覚えるだけでなく、その学び方自体を身に付けることも重要です。学び方のことを「学習方略」と呼び、その中で計画的に学習する方法として「プランニング方略」と呼ばれるものがあります。調査の結果、プランニング方略の項目である、「時間を決めて勉強を行っている」「1日にどれくらい学習するかを考えてから勉強に取り組んでいる」「勉強を始める前に、これから何をどうやって勉強するかを考えている」について、オンライン授業経験者の方が高い結果が得られました。

図4.オンライン授業とプランニング方略との関係(公立学校)

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もちろん、公立・私立・国立の学校種別関係なく全体で見てもオンライン授業受講者の方が高いのですが、公立学校に限定しても効果が得られていることから、オンライン授業による付随的な効果であるとみられます。オンライン授業では限られた時間内での受講のため、教室で先生に見守られながら課題に取り組んだり、分からないことがあったらすぐ質問できる環境とは異なります。自宅で課題に取り組み、限られた期間内(その日中など)で提出するようにする学習姿勢は、自然とプランニング方略を身に付けることに役立っているのかもしれません。このような付随的な効用も明らかになっていけば、コロナの第2波への備えだけでなく、アフターコロナのニューノーマルな教育スタイルとして、オンライン授業に向けた教育環境の整備を進めていくことにも大きな意味を持つことでしょう。

出典)野村総合研究所 20206-7月期シングルソースデータ(関東エリア 20-69歳、小中学生の子どもがいる人:N=573

(林 裕之)